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前科(犯罪歴)を隠して採用されたら解雇されるか?

履歴書の様式によっては、右側の真ん中あたりに「賞罰」の欄が設けられている場合があります。

また、企業の採用試験時や面接時に記入させられるエントリーシートにも「賞罰」の欄が設けられている場合があります。

この「賞罰」の欄には、コンクールや展覧会の受賞歴などを記載するのが通常ですが、警察や消防からの感謝状をもらった経験がある場合や、過去に犯罪を犯している場合の前科歴などもこの「賞罰」の欄に記載することになるでしょう。

≫ 履歴書の賞罰欄には何を書くべき?書かないべき?

ここで問題となるのが、前科があるにもかかわらず「賞罰」の欄にその犯罪歴を記載せず採用された場合です。

犯罪歴の有無は、その従業員を雇い入れるうえで重要な判断材料となることが想定されますので、それを隠して採用されたことが後で会社に知れることになった場合、会社から解雇されたりするものなのでしょうか?

そこで今回は、前科(犯罪歴)は採用面接の際に申告しなければならないか、また前科(犯罪歴)を隠して採用された場合、解雇されることもあるのか?ということについて考えてみることにいたしましょう。

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採用時に過去の犯罪歴を聞かれた場合は、過去の犯罪歴を正直に申告しなければならない

企業(雇い主)が履歴書の規格を指定していてその指定された履歴書に「賞罰」の欄が設けてあったり、採用面接時のエントリーシートに「賞罰」の欄が設けてあるような場合には、そこには前科があれば正直に犯罪歴を記載しなければなりません。

なぜなら、使用者が記載を求める履歴書なりエントリーシートなりに「賞罰」の欄が設けてあるということは、企業(雇い主)側の採用基準に受賞歴や犯罪歴が含まれているということになるからです。

企業(雇い主)が労働者を雇用しようとする場合には、雇用しようとする労働者の労働力に直接関係する事項だけでなく、その労働者が企業(雇い主)の職場に適応し企業の信用を保持できるかなど企業の秩序を維持するうえで問題がないかといった事項についても、その事項が合理的な範囲のものである限り労働者に質問することができます。

そして、労働者がこのような質問を受けた場合には、企業(雇い主)に対して嘘偽りなく誠実に回答しなければなりません。

過去の裁判例でも、「使用者が、雇用契約の締結に先だって、雇用しようとする労働者に対し、その労働力評価に直接かかわる事項ばかりでなく、当該企業あるいは職場への適応性、貢献意欲、企業の信用の保持等企業秩序の維持に関係する事項についても必要かつ合理的な範囲内で申告を求めた場合には、労働者は、信義則上、真実を告知すべき義務を負う」と判示されています(炭研精工事件・最高裁平成3年9月19日)。

聞かれない限り、犯罪歴を自ら申告する必要はない

前述したように、採用時に犯罪歴を”聞かれた”場合には誠実に過去の犯罪歴を回答しなければなりません。

しかし、これは企業側(雇い主側)から”聞かれた”場合の話であって、面接の際に犯罪歴の有無を質問されていないのであれば、自ら進んで過去の犯罪歴を申告する必要はありません。

そのため、仮に会社が指定する履歴書やエントリーシートに「賞罰」の欄が設けられてない場合には、過去の犯罪歴について記載する必要はありませんし、また、面接時に聞かれない限り過去の犯罪歴を申告する必要もありません。

前述した裁判例でも「申告を求めた場合には・・・真実を告知すべき義務を負う」となっていますので、聞かれていない限り(求められていない限り)犯罪歴を申告する必要はなく、申告しなかったことを持って経歴を詐称したということにはなりません。

ちなみに、企業側で履歴書の規格を指定していない場合には、過去の犯罪歴がバレないように「賞罰」の欄の設けられていない規格の履歴書を選んで使用するようにしておいた方が良いでしょう。

「賞罰」の欄の設けられてある履歴書を使用しているにもかかわらず逮捕歴を記載しないで空欄のまま提出してしまうと、後で犯罪歴がバレてしまった際に「なんで履歴書に賞罰の欄があるのに犯罪歴を記入しなかったんだ?」と突っ込まれてしまい面倒になるので注意してください(※もっとも、その場合でも会社が賞罰の欄のある履歴書を使用するように指示していない限り犯罪歴を隠したということまでは言えないと思いますが・・・)。

なお、「賞罰」の欄の設けられていない規格の履歴書が見つからない場合は、PCを使ってワードやエクセルで「賞罰の欄のない履歴書」を自作すればよいと思います。

「公判継続中」「処分保留のまま釈放された」「起訴猶予になった」事件の場合は「犯罪歴」にはあたらない

前述したとおり、企業側から過去の犯罪歴を聞かれた場合には、正直に過去の犯罪歴を申告しなければなりません。

もっとも、この「過去の犯罪歴」とは、「確定した有罪判決」のことをいいます。

そのため、公判途中であったり、逮捕された場合でも処分保留のまま釈放されたり、起訴猶予のまま釈放された場合には「過去の犯罪歴」にはあたりませんから、会社から質問をされた場合でも「過去の犯罪歴はありません」と答えて構いません。

たとえば、逮捕されて第一審(地方裁判所)で有罪判決が出た場合であっても、控訴して高等裁判所で継続して公判が行われている場合であれば未だ有罪と確定しているわけではありませんから、保釈されて企業の面接を受けたような場合であっても「犯罪歴はありません」と答えて問題ありません。

また、逮捕されて拘留されたものの処分保留のまま釈放されたような場合や、逮捕されたものの起訴猶予処分で釈放されたような場合にも、裁判で有罪と確定されたわけではありませんから、その後企業の採用面接の際に「前科はありますか」と聞かれたとしても「ありません」と答えて問題ありません。

過去の裁判例でも、「履歴書の賞罰欄に言う罰とは、一般的には確定した有罪判決をいうものと解すべきであり・・・」と判示されて、公判継続中の保釈中に受けた採用面接で「賞罰」の欄に犯罪歴を記載しなかったことは経歴詐称にあたらないという趣旨の判断がなされています(炭研精工事件・最高裁平成3年9月19日)。

「公判継続中」の事件は賞罰の「罰」にはあたらないとされた裁判例
炭研精工事件(最高裁平成3年9月19日)
・次大森精工機事件(東京地裁昭和60年1月30日)
「起訴猶予処分」の事件は賞罰の「罰」にはあたらないとされた裁判例
マルヤタクシー事件(仙台地裁昭和60年9月19日)

刑期を終えて10年を経過したり、執行猶予期間が経過した犯罪についても犯罪歴として申告する義務はない

前述したとおり、履歴書の賞罰欄における「罰」とは「確定した有罪判決」のことをいいますから、過去に犯罪を犯して有罪判決が確定した事実がある場合には、履歴書にその犯罪歴を記載しなければなりませんし、面接の際に過去の犯罪歴を聴かれた場合には正直にその犯罪歴を申告しなければなりません。

しかし、たとえ過去に「確定した有罪判決」を受けている場合であっても、その刑の効力が失われている場合には「罰」として申告する必要はありません。

「刑の効力が失われる」場合とは、具体的には執行猶予が付いた判決でその執行猶予の期間が経過した場合(刑法27条)や、刑の執行が終わって10年が経過した場合(刑法34条の2)などをいいます。

たとえば懲役1年執行猶予2年の判決が確定した後、執行猶予期間の2年が経過した場合は刑の効力が失われることになりますから、執行猶予期間が経過した後に企業の採用面接を受ける際に履歴書の賞罰の欄に「犯罪歴」を記載する必要はありませんし、面接時に「過去に犯罪歴はありますか?」と聞かれたとしても「ありません」と答えて何ら問題ありません。

また、懲役の実刑を受けて服役し釈放されて10年を経過すれば刑の効力は失われますから、その後に受ける採用面接では「過去の犯罪歴はない」と答えて問題ないことになります。

少年事件の非行歴を申告する必要はない

未成年の時期に犯罪を犯して逮捕された場合であっても、それが少年法の保護処分に該当するようなものである場合には過去の犯罪歴として申告する必要はありません(西日本警備保障事件・福岡地裁昭和49年8月15日)。

そのため、たとえ少年事件の非行歴がある場合であっても、企業の採用面接時に履歴書に「過去の犯罪歴」として記載する必要はなく、面接官から「過去の犯罪歴はありますか」と聞かれた場合でも「ありません」と答えて全く問題ありません。

前科(犯罪歴)を隠して入社したら解雇されるか?

以上のように、過去に犯罪を犯している場合であっても、執行猶予期間を経過していたり刑期を終えている場合は「犯罪歴」は消滅していることになりますし、起訴猶予処分や処分保留のまま釈放されたり少年時の犯罪であった場合にそもそも「犯罪歴」には該当しませんから、そのような”前科”を隠して就職したとしても何ら法律的に問題はありませんし、たとえ会社に就職した後で過去の犯罪が明るみになったとしても会社から解雇されることはありません。

(※仮にこのような場合に過去の犯罪を理由に解雇された場合にはその解雇は違法(無効)となる可能性が極めて高いです)

また、仮に執行猶予期間中で犯罪歴があったとしても、面接時に過去の犯罪歴を聞かれない場合には自ら進んで過去の犯罪歴を話さなければならない理由はありませんから、たとえ過去の犯罪歴が明るみになったとしても面接時に犯罪歴を明かさなかったことを理由に解雇されることはありません。

(※仮にこのような場合に「過去の犯罪歴を隠した」との理由で解雇されたとしても、面接時に過去の犯罪歴を聞かれていないのであれば過去の犯罪歴を「隠した」ことにはなりませんからその解雇は違法(無効)となる可能性があります)

しかし、過去に確定した有罪判決があり、その刑の効力が失われておらず(刑期を満了した後10年が経過しておらず)、かつ、採用時に企業(雇い主)から過去の犯罪歴を聞かれた場合には、正直に過去の犯罪歴として正直に申告しなければならないと考えられますので、もしそのような告知しなければならないような犯罪歴を隠してその企業に雇用され、その後企業に過去の犯罪歴が発覚したような場合には、その法律的な有効性は別にして過去の犯罪歴を隠したことを理由として解雇される可能性はありますから、会社から犯罪歴を聞かれた場合には犯罪歴を隠して就職することは控える方が賢明だと思われます。

※もっとも、使用者が経歴詐称を理由として労働者を解雇する場合には、就業規則に懲戒解雇事由として「重要な経歴を詐わり、その他詐術を用いて雇用されたとき」などと”経歴を詐称した場合は解雇する”という規定が明確に定められている必要がありますから、そのような就業規則の規定が定められていない会社では、たとえ従業員に経歴詐称があったとしても解雇することはできません(※このような規定がない会社で経歴詐称を理由に解雇してもその解雇は無効となります)。
 また、仮に”経歴を詐称した場合は解雇する”という就業規則の規定があったとしても、経歴を詐称した経緯や経歴詐称が会社に知られるまでの期間における会社側の対応などによっては解雇が無効と判断される場合もありますので、犯罪歴を隠していたことを理由とする解雇がすべての場合に”適法(有効)”となるわけではありません。
 過去の犯罪歴を隠していたことを理由に解雇された場合には、その解雇を無条件に受け入れるのではなく弁護士などの法律専門家に相談し、”その経歴詐称を理由とする解雇が有効か”という点を十分に検討することが必要です。

なお、前述したように「刑の効力が失われた犯罪」や「起訴猶予の事件」「処分保留のまま釈放された事件」「少年時の非行」など、『確定した有罪判決』ではないにもかかわらず、会社から過去の犯罪を隠していたという理由で解雇されたような場合は、その解雇は法律的に違法と判断される可能性が高いです。

そのため、そのような不当な解雇を受けた場合は、速やかに会社に対して解雇を撤回するよう求めるか、弁護士などの法律専門家に相談して適切な対処を行う必要があるでしょう。

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