AV出演の強制に関する裁判例の法律的な考え方

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最近ニュースで取り上げられることも多くなったアダルトビデオへの出演を強制させられてしまう問題ですが、最近までこのような被害があまり表面化してこなかったこともあって過去の裁判例はそれほど多くなく、また仮に判決があったとしても被害の性質から公開が制限されているためか資料となるようなものはあまり見受けられないようです。

私もこの問題に少し興味があり、ネットでいろいろと検索を掛けてみたのですが資料に値するようなものは見つからず、いつもよく利用する裁判所の判例検索などで調べてみても同様の被害に関する裁判例は公開されていませんでした。

そんな折、唯一見つけられたのが平成27年の9月9日に東京地方裁判所で出された裁判例(東京地裁平成26年(ワ)第25782号)です。

この裁判は、アダルトビデオへの出演を拒否した女性に対してプロダクション側が高額の違約金の請求を求めて提訴した事件で、プロダクション側の請求を棄却する(プロダクション側の敗訴)判決が出されたことからAV出演を強制されている女性被害者の救済に道筋をつける一つのリーディングケースとして認知されているようです。

そこで今回は、この裁判例がどのような法律構成(法律解釈)でアダルトビデオへの出演を強制された女性を救済する判断を下したのか、その判決の考え方などについて私なりにレポートしてみたいと思います。

なお、この判決の原文を確認することができませんでしたので、このページでは、この判決の要点が記述されている”ヒューマンライツ・ナウ”というNPO法人が作成した「ポルノ・アダルトビデオ産業が生み出す、女性・少女に対する人権侵害 調査報告書」という論文と、同志社女子大学助教の鈴木尊明氏が作成した「AV出演の拒絶を理由とする損害賠償請求が否定された事例」というレポートの2つを参考資料としてこの裁判例の判断を考えていくことにします(※この2つの文書はインターネット上に公開されています※後述の参考サイトにリンクを張っています)。

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事件の概要

このアダルトビデオへの出演を拒否した女性に対してプロダクション側が高額の違約金を請求した事件の概要については前述したネット上で公開されている2つの文書(※後述の参考サイトにリンク有り)を読んでいただければ分かると思いますがここでも簡単に説明しておきましょう。

【事件の概要】

この事件の被害者である女性は高校生の時に”タレント”としてスカウトされて、この裁判の原告であるプロダクションに所属することになりました。

その際、プロダクションは『女性がプロダクション側にマネジメント業務を委託する』という形で「営業委託契約」という形式の契約を結ぶことを女性に求め被害女性に署名捺印させていますが、プロダクション側はこの契約に被害女性の親の同意は取っておらず、契約書の控えも女性に渡していません(※なお、この契約書には契約期間を2年間とする記載がなされていました)。

その後女性は”普通のタレント”になるものと思って活動を始めますが、プロダクション側は被害女性に無断で制作会社との間でわいせつな作品(露出度の高いグラビア等)に出演する契約を結んでしまい、被害女性が拒否すると「違約金が発生する」「親に連絡する」などと脅迫し強制的に出演させました(ただし被害女性は1円も報酬を受け取っていないようです)。

そして女性が成人するとプロダクションは女性に無断で10本のアダルトビデオへの出演を制作会社との間で取り決めてしまいます(なお、この際も前述の「営業委託契約」という形式をとり契約期間を2年間とする契約書が作成されています)。

被害女性は辞めたいと繰り返しプロダクションに申し出るのですがここでもプロダクションは「違約金が発生する」などと脅迫し、嫌がる被害女性を無理やり1本目のAVに出演させました(※なお、このAVは相当に暴力的な内容であったようです)。

撮影後、被害女性は残り9本のAVに出たくない旨プロダクションに申告しますが、数千万円の違約金の存在を告知されるなどの脅迫を受けて執拗にAVへの出演を迫られたため体調を崩してしまい、民間の支援団体に駆け込むことになります。

その後団体の支援を受けた被害女性はプロダクションに対して契約の解除を通知しますが、契約の解除によって数千万円の違約金が発生したと主張するプロダクション側から東京地裁に提訴されてしまいます。

以上がこの事件の簡単な概要となります。

※この事件の概要は、認定NPO法人ヒューマンライツ・ナウの作成した「ポルノ・アダルトビデオ産業が生み出す、女性・少女に対する人権侵害 調査報告書」および同志社女子大学助教 鈴木尊明氏のレポートした「AV出演の拒絶を理由とする損害賠償請求が否定された事例」を参考に作成しています。

事件の法律的な考え方

この事件の契約は、被害女性が高校生の時にプロダクションと契約した「露出度の高いグラビア映像の出演契約」と成人した後に契約した「10本のAV出演に関する契約」の2つの契約に分けられますので、そのそれぞれの契約について別個に契約の有効性、契約解除(取り消し)の有効性を考えていく必要があります。

また、被害女性とプロダクションとの間に結ばれた契約は、形式上『女性がプロダクション側にマネジメント業務を委託する』形の「営業委託契約」という形態がとられていますが、実際にこの契約を”委託”として認定してよいのか、という点も考えなければなりません。

なぜなら、形式的には「営業委託契約」となっていても、被害女性とプロダクションとの関係が”雇用”と判断できるようであれば(被害女性がプロダクションに雇われたと考えることができれば)雇用契約として労働基準法や労働契約法などの労働法規を根拠としてプロダクション側の主張と争うことができるからです。

判決の内容

この事件の裁判例(東京地裁平成27年9月9日)において裁判所は下記のような判断をしてプロダクション側の請求を退けています(プロダクション側の敗訴)。

なお、前述したようにこの事件では被害女性が高校生の時にプロダクションと結んだ「露出度の高いグラビア映像の出演契約」と成人した後に結んだ「10本のAV出演に関する契約」の2つの契約が認められますので、以後は前者の契約を「契約①」と、後者の契約を「契約②」と表記して説明していきます。

(1)契約の性質

この事件でまず問題となるのは被害女性とプロダクションとの間で交わされた契約①と契約②がどのような法的性質を持つ契約だったのか、という点です。

この事件では、プロダクション側が『女性がプロダクション側にマネジメント業務を委託する』という形で契約書を作成し「営業委託契約」という名の元で被害女性に署名捺印させています。

しかし、形式的には「営業委託契約」という”委託”の形をとって契約が結ばれていたとしても、その契約が実質的に「営業委託契約」という性質を有していないのであれば、法律上その契約は「営業委託契約」ではないと判断されるため問題となります。

この点、この裁判では、「被害女性が出演する作品の決定権は全てプロダクション側にあったこと」を根拠に、契約①と契約②は「被害女性がプロダクションにマネジメントを”委託”するという契約」ではなく、「プロダクション側が被害女性を雇い入れてプロダクションの指示の元に被害女性をわいせつなビデオまたはAVに出演させることを目的とした”雇用類似”の契約」であったという趣旨の認定しています。

この事件でプロダクション側は

「被害女性がマネジメントを申し入れてきた」→「だから委託契約を結んだ」→「なのに出演を拒否した」→「だから違約金を支払え」

という論調で自己を正当化する主張をしているのですが、もし本当にこの契約が被害女性側から”委託”されたものであるならば「どの作品に出演するか」や「どの作品に出演しないか」という決定権は被害女性側にあるはずです。

しかし、実際にはこの被害女性は自身が望まないわいせつビデオやAVに出演させられているのですから、出演する作品の選択権は全てプロダクション側にあり、被害女性には一切選択の余地がなかったということが言えます。

そのため、この被害女性とプロダクションの間で結ばれた契約は形式的には「営業委託契約」という”委託契約”の形式をとっているものの、実質的には”委託契約以外の契約”だったということになります。

では法律的にどのような契約であったのかというと、「プロダクション側が決めた作品」に「プロダクション側の一方的な指示」で被害女性を出演させている態様を考えてみれば、”使用者が労働者を雇い入れて使用者の決定した仕事に労働者を従事させる「雇用契約」”と同じような契約であったと考えることができます。

そのため、この被害女性とプロダクションの間で結ばれた「営業委託契約」は形式的には”委託契約”という形で契約されているけれども、実質的には「労働契約に類似する契約」であったということができ、この裁判例ではこの被害女性とプロダクションの間で結ばれた契約は契約①および契約②ともに「雇用類似の契約」であったと認定されたのだと思われます。

(2)契約解除(又は取り消し)の有効性

前述したように、この被害女性とプロダクションの間で結ばれた契約は、契約①と契約②の双方とも「雇用類似の契約」と認定されるため、労働基準法や労働契約法、民法の雇用に関する規定などの法律を適用して”解除”または”取り消し”ができるかが問題となります。

契約を有効に”解除”または”取り消し”できるのであれば契約が契約時に遡って「なかった」ことになるのですから、プロダクションが主張している違約金の請求も基本的に排除することができると考えることができますので、”雇用契約”の法律を適用して有効に契約の解除又は取り消しができているかという点が重要となります。

イ)被害女性とプロダクションの間で結ばれた”雇用契約”の性質

この被害女性とプロダクションの間で結ばれた契約を雇用契約であると考えた場合、その雇用契約が「期間の定めのある雇用契約」であるのか「期間の定めのない雇用契約」であるのかが問題となります。

この点、前述したように、この被害女性とプロダクションの間で結ばれた”営業委託契約”の契約書には契約①および契約②ともに「2年間」という契約期間が設定されていましたから、この被害女性とプロダクションの間で結ばれた「雇用契約」は契約①および契約②双方とも「期間の定めのある雇用契約」として民法628条が適用されることになります。

【民法第628条】

当事者が雇用の期間を定めた場合であっても、やむを得ない事由があるときは、各当事者は、直ちに契約の解除をすることができる。(後段省略)

民法第628条では、雇用契約に「期間の定めがある」場合であっても、やむを得ない場合はいつでも契約を解除することができると定められていますから、女性側に「やむを得ない事由があったのか」という点を考える必要があります。

ロ)被害女性に「やむを得ない事由」があったといえるか

a) 契約①に「やむを得ない事由」があったか

結論から言うと、契約①に関してはこの裁判例では被害女性に「やむを得ない事由」があったか否かという点は判断されていません。

なぜなら、この契約①については未成年者の時に親の同意を得ないで契約したものであったため、被害女性側が「雇用契約の解除」ではなく「民法第5条第2項の未成年者の法律行為による取り消し」を主張しているからです。

【民法第5条】

第1項 未成年者が法律行為をするには、その法定代理人の同意を得なければならない。(但書省略)
第2項 前項の規定に反する法律行為は、取り消すことができる。
第3項 (省略)

未成年者が親権者等の同意を得ずに行った法律行為は民法第5条第2項によって取り消すことができます。

そのため

「被害女性とプロダクションの間で結ばれた契約は雇用契約(雇用契約に類似する契約)にあたる」→「でもその雇用契約は親の同意を得ずに未成年のときに結ばれたもの」→「だからやむを得ない事由があろうとなかろうと民法第5条第2項で取り消すことができる」

という理屈が成り立つことになり、被害女性がプロダクション側と契約①を結んだのは被害女性が未成年者の時であることは明白で、親権者の同意を得ていた事実もありませんから(※親の同意を得ていたことはプロダクション側が立証しなければなりませんが、被害女性から同意書は取っていないのでその立証をすることができなかったとものと思われる)、被害女性がプロダクションに行った契約の取消通知は有効といえる、ということになります。

B) 契約②に「やむを得ない事由」があったか

民法第628条の「やむを得ない事由」が具体的にどのような事由をいうのか、という点については、難しすぎてこのページで説明することはできませんので、ここではこの裁判例の判断だけを記載しておきます。

(※なお、民法第628条の「やむを得ない事由」の解釈等については後述の参考サイトにリンクを張っている同志社女子大学助教の鈴木尊明氏がレポートした「AV出演の拒絶を理由とする損害賠償請求が否定された事例」に詳細な説明があります)

この裁判例では、契約②のAVへの出演という行為が「プロダクションが指定する男性との間で性行為をすることを内容とするもの」であることから、「出演者である女性の意に反してこれに従事させることが許されない性質のもの」であったと判断しているようです。

そして、そう判断したうえで、AVへの出演を拒否した被害女性に対してプロダクション側が数千万円という多額の違約金の存在を告知して出演を強制している状況があったことから、そのような事由を民法第628条の「やむを得ない事由」であると認定して、そのようなプロダクション側の行為から逃れるためにおこなった被害女性の契約解除を有効と判断したものだと考えられます。

(2)契約解除(又は取り消し)の効果

この判決では契約②に関しては、前述したように民法第628条の「やむを得ない事由」があることを認めて被害女性の行った契約の解除を有効と判断しています。

被害女性のAV出演契約の解除を認めるということは、この事案の10本のAV出演契約のうち2本目以降の出演契約の解除が認められるということになりますから、当然、被害女性が2本目以降のAVに出演する義務(債務)は消滅することになります。

ところで、この事件ではプロダクション側は”債務不履行に基づく損害賠償”という形で被害女性に違約金を請求していますが、この”債務不履行”とは、請求の相手方に”〇〇しなければならない”という”債務”があるのに相手方がその債務を行わないことという意味合いになります。

しかし、この事案では前述したように被害女性が契約を解除したことによって2本目以降のAVに出演する”債務”がなくなるのですから、2本目以降のAVに出演させることができなくなったことによってプロダクション側に損害が発生したとしても被害女性がその損害を負担しなければならない義務は発生しないということになります。

以上のような判断がなされた結果、プロダクション側が被害女性に行った違約金の請求は認められずプロダクション側が敗訴したというのがこの裁判例の判断であったようです。


参考サイト

認定NPO法人 ヒューマンライツ・ナウ Human Rights Now
http://hrn.or.jp/
※ポルノ・アダルトビデオ産業が生み出す、女性・少女に対する人権侵害 調査報告書(pdf)→ http://hrn.or.jp/wpHN/wp-content/uploads/2016/03/c5389134140c669e3ff6ec9004e4933a.pdf

新・判例解説Watch
http://lex.lawlibrary.jp/commentary/property.html
※AV出演の拒絶を理由とする損害賠償請求が否定された事例(同志社女子大学助教 鈴木尊明:pdf)→ http://lex.lawlibrary.jp/commentary/pdf/z18817009-00-031161370_tkc.pdf


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